イヤホンやヘッドホンを選ぶ際に「ドライバー構成」という表記をよく見かけないでしょうか?
そうです。DD何基や、BA何基などと書かれているアレです。
イヤホンは家電量販店などで試聴が可能なので購入前になるべく試聴して欲しいのですが、製品数が膨大で、全ての製品を片っ端から試聴することは困難ですよね。
そんな時にまず、ドライバーの特徴を理解していれば、ドライバー構成を確認するだけである程度音の雰囲気を推定することが可能です。
本記事はドライバーの役割と各ドライバーの特徴を解説しています。
ドライバーの役割は?
ドライバーは簡単にいうと、イヤホンやヘッドホンの中でスピーカーの役割をする部品です。
ドライバーが空気を振動させることでイヤホンは音を奏でることができます。まさに心臓部となる部品ですね。
ドライバーには原理や構造によっていくつか種類があり、ドライバーの種類や構成よって音の特徴が変化します。
例えば同じ「ド」の音でも、ボーカルの声帯から発せられるか、弦楽器の音か、管楽器の音かで全然音色が違いますよね。
このようにドライバーはイヤホンの音色に大きく影響を与える部品です。
以降よりそれぞれのドライバーの特徴を紹介します。
ダイナミック型(DD型)
ダイナミック型は最も一般的なドライバーで、音楽信号を受けたコイルが振動板を振動させることで音を作り出します。一般的にDDと表記されます。
通常のダイナミックドライバー
◯:構造がシンプルで安価。
◯:1基構成のものが多く、低域から高域までの繋がりが良い。
△:振動板の形状に由来する歪みが発生する。
△:コイルの磁気に由来する歪みが発生する。
最も一般的なドライバー。振動板が凹型にたわんだ形状になっています。(スピーカーのコーンと同様)
構造がシンプルで安価という特徴がありますが、
シンプルで安価だから質が悪いということもなく、ドイツ発祥の老舗オーディオブランド「ゼンハイザー」は全てのイヤホンでダイナミックドライバーを採用しています。
平面磁気型ドライバー
◯:振動板の形状に由来する歪みが通常のダイナミックより小さい。
△:インピーダンスが大きくなるため、鳴しきるには高出力なアンプが必要。
△:振動させるための磁力が大きくなるため磁力に由来する歪みは大きくなる。
原理は通常のダイナミックドライバーと同様ですが、振動板が平面形状になっており、振動板の形状に由来する音の歪みが少ないという特徴があります。
平面駆動型は表記が統一されておらず、「平面駆動型」「平面磁界型」「平面磁気駆動型」など、ブランドによって様々な呼称がなされていますが、本ページでは「平面磁気型」と表記させて頂きます。
「平面的な振動板」を「磁気で振動させる」ものです。
平面磁気型は音の歪みが少ないというメリットはありますが、平面的な振動板を振動させるためには大きな磁力が必要となるため、スマホ直挿しでは十分な音量が得られず別途アンプの必要な場合が多いです。
また、原理上磁力由来の歪みは少なからず生じるという問題はあります。
平面磁気型は最近のイヤホン・ヘッドホン共にかなり普及してきた印象です。
バランスドアーマチュア型(BA型)
◯:繊細な音を表現できる
◯:部品が小さいため小型化が可能
△:1基あたりの再生周波数の幅が小さい
△:低域の再生は苦手
バランスドアーマチュア型は補聴器の開発から生まれたドライバーで、繊細な音の表現が得意で部品が小さいという特徴があります。一般的にBAと表記されます。
原理としては電気信号をうけたコイルがアーマチュアと呼ばれる小さな金属板を振動させ、その振動を振動板に伝えることで音が出ます。
BAは一般的に1基ごとの再生できる周波数帯域幅が狭いため、周波数帯ごとに複数基のドライバーを搭載することが多いです。(複数基のドライバーが搭載されているイヤホンのことを多ドラとも呼びます)
構造が複雑なためコストがかかり、高級なイヤホンに搭載されていることが多いです。
ただし最近はKZなどの中華製ブランドのイヤホンがリーズナブルな価格で販売するようになっています。
SHUREのフラッグシップイヤホン「SE846」もBAドライバーのみを4基搭載しているイヤホンです。
ハイブリッド型
◯:複数種ドライバーの良いところ取り
△:クロスオーバー処理が不十分な場合、位相ズレが生じる
その名のとおり、複数のドライバーを組み合わせた方式です。例えば高域の繊細な表現の得意なBAと低域の音圧が出しやすいDDの良いとこ取り構成などがポピュラーです。
ただし、ドライバー数が増えると各ドライバーの周波数が干渉する「クロスオーバー」という現象が発生し、音が不自然になる場合があります。
コンデンサー型
◯:振動板が極薄のため振動板由来の歪が少ない。
◯:磁気を使用しないため、磁気由来の歪みがない。
△:振動板に大きな電圧をかける必要があり、専用のアンプが必要。
△:製造に精密な技術が求められるため高価。
コンデンサー型ドライバーは非常に薄い膜でできた振動板を帯電した2枚のプレートに挟んだ構造になっています。
この振動板は質量がほぼゼロに近い程薄く、極めて精細な動きで振動するため原音に限りなく近い音源再生が可能になります。
製造に精密な技術が求められるため生産できるメーカーに限りがあり、また非常に高価です。
また、プレートを帯電させるために高い電圧が必要なため、専用のアンプが必要になります。
よく「別次元のサウンド」と揶揄されるのですが、濁りのないクリアで繊細なサウンドは確かに別次元に感じます。
ピエゾドライバー
◯:超高域の再現性が高い
△:超高域しか担当できない
ピエゾドライバーの原理は電荷を与えると形状が変形し、電荷を開放すれば形状が戻るというセラミックの特性を利用したドライバーです。
その変化が極めて高速なため、非常に正確な高域の再現が可能です。また、コンデンサー型と同様に磁力を使用しません。
ピエゾドライバーが単体で使われることは殆ど(全く?)なく、ハイブリッドドライバーの超高域を担当するという使い方でNoble AudioのKHANなどに搭載されています。
ピエゾドライバーは時計のアラームなどによく使われていますが、イヤホンのドライバーとしてはまだ多くは普及していません。
MEMSドライバー
MEMSドライバーは米国のxMEMS Labという企業がMEMS技術を活用して開発したイヤホン用のドライバーのことで、原理としては電圧をかけると伸縮するピエゾドライバーと同様の特徴を活かして、シリコン製の振動板が開閉することで音が鳴ります。
MEMSドライバーは非常に薄く小さく、かつ強靭なため、新しいイヤホンの技術として注目されています。
MEMSドライバー自体の防水等級がIP58もあるため、水や粉塵に非常に強いのも特徴です。
まとめ
ドライバー構成で全ての音が決まる訳ではないのですが、イヤホンの心臓部とも言えるパーツのためスペックを確認する際の1つの指標としてドライバーの知識を持っておくことは非常に良いことだと思います。
ただ、界隈に長くいる人ほど、スペックの重要さは理解しつつもスペックだけで音の評価はできないと考えていることも事実です。
スペックでおおよその音質を想像してから、実際に店頭で試聴して答え合わせをする(そして感想や違いをSNSに投稿したりする)こともポタオデをする上で非常に楽しい作業です。
「IE900は1DDなのに高域がクリアで改造度が高い!!」とか「SE846は4BAなのに低音がすごい!!」といった書き込みをSNSでよく見かけると思います。
電気的・物理的な正しさが音楽的な正しさじゃないところがオーディオの難しい部分であり、楽しい部分でもありますね^^;