オーディオ機器のスペック表を眺めていると「S/N比 110dB」「SNR 120dB」といった数字が並び、意味が分からず戸惑う人は多いはずです。
SN比が高いほど音が良いと聞いても、どこからが十分なのか、ほかのスペックとどう比べれば良いのか判断しづらいと感じると思います。
筆者はこれまでに数千円から数十万円クラスまで幅広いイヤホンやヘッドホンアンプ、DACのレビューを行ってきました。
本記事では、SN比の意味と仕組み、dB表記の理由、騒音で用いるdBとの違い、そして現代のオーディオDACで意識すべきSN比の目安を整理します。
読み終えるころには、自分の用途に必要なSN比の水準が分かり、スペック表を見ても迷わなくなるはずです。
結論として、現在市販されているDACやヘッドホンアンプでSN比がおおよそ110dB以上であれば、家庭でのリスニングやFPSゲーム用途ではノイズを意識する場面はほぼ無いと考えられます。
SN比とは?

まず結論から言うと、SN比とは「有用な信号」と「ノイズ」の比率をdBで表した指標です。オーディオの文脈では、聴きたい音のレベルと、機器内部で発生する残留ノイズの差を示す数値になります。
SN比が大きいほど、ノイズの少ないクリアな音が得られると理解して問題ありません。
もう少し踏み込むと、SN比は「信号電力÷ノイズ電力」で定義されます。
dB表示では
SN比(dB) = 10 × log10(信号電力 / ノイズ電力)
と表せます。
電圧で扱う場合、電力が電圧の2乗に比例するため、式は
SN比(dB) = 20 × log10(信号電圧 / ノイズ電圧)
という形になります。
例えば、アンプが最大出力を出したときの信号電圧を1とし、無入力時に残るノイズ電圧が0.0003だとします。この場合、電圧比は約1/0.0003≒3333で、SN比は約70dBになります。
SN比が90dBなら、ノイズはさらに小さくなり、静かな部屋で耳を澄ませてもほとんど気にならないレベルと考えられます。
デジタル音声の世界では、CDの16bit音源で理論上約96dB、24bit音源では約144dBのダイナミックレンジが得られるとされています。
現実のDACでは回路ノイズが加わるため理論値より小さくなりますが、中級機でもSN比110dB前後、高級機では120dB超というスペックが一般的になっています。
現代のオーディオDACのSN比は、すでに家庭用としては「余裕がある」領域に到達していると見て良いでしょう。
何故dBで表現するのか

SN比をdBで表現する最大の理由は、扱う数字のスケールが非常に大きく、比率のままだと直感的に比較しづらいからです。
オーディオ信号とノイズの比率は、数十倍から数十万倍にまで広がり、素の数字だと感覚的な比較が困難になります。
比率をそのまま書くと「1000:1」「100000:1」のように桁が増えていきます。
これをdBに変換すると、およそ60dB、100dBといった具合に、扱いやすい数字へ圧縮できます。
さらに、dBは対数スケールであるため、複数の増幅や減衰を足し算で扱えるという実務上のメリットもあります。
例えば、ある機器でSN比が70dB、改良後に90dBになったとします。SN比が20dB改善したということは、ノイズのエネルギーが100分の1になったことを意味します。数式としては少し難しく感じるかもしれませんが、「dBが20増えると、ノイズはエネルギーベースで100分の1」とだけ覚えておけば十分です。
人間の聴覚が音の大きさをおおまかに対数的に感じることも、dBが使われる理由です。音圧が10倍になっても「音量が10倍になった」とは感じず、数dB変わると「少し大きくなった」と認識します。
dB表示は、人間の感覚と、オーディオ機器の物理的な特性を結び付ける便利な単位だと考えられます。
騒音のdBとの違い

dBって騒音の単位では?という疑問が生まれるかもしれません。
結論から言うと、dBは比率を扱う単位で音量の単位ではありません。
騒音レベルとして使われるdBは「dB SPL(Sound Pressure Level)」と呼ばれます。dB SPLは空気の振動の強さを、可聴最小音圧である基準音圧と比較したノイズを対数スケールで表した絶対値です。
一方でSN比のdBは、ある機器内部の「信号」と「ノイズ」の比率を同じ測定条件で比較した相対値です。
ようするに、同じdBという単位でも、SN比で扱うdBはノイズの小ささを、騒音レベルで扱うdBは空間のうるささを示すものです。
まとめ

最後に、本記事のポイントを整理します。
- SN比とは、有用な信号とノイズの比率を示す指標で、値が大きいほどノイズの少ないクリアな音になる。
- SN比は比率のスケールが非常に大きいためdBで表され、20dBの差はノイズエネルギーが100倍違うことを意味する。
- 騒音レベルのdBは絶対的な音圧レベル、SN比のdBは機器内部の相対的な比率であり、同じdBでも比較の基準が異なる。
- 現代のオーディオDACやヘッドホンアンプではSN比100〜110dB以上が一般的で、家庭用リスニングやFPSゲーム用途では110dB前後あれば実用上十分と言える。
- スペック表ではSN比だけでなく、出力レベル、ゲイン設定、ヘッドホンの感度や設置環境も合わせて確認すると、数字に振り回されず自分に合った機材を選びやすくなる。
SN比は一見わかりにくい指標ですが、「信号とノイズの差をdBで表したもの」と理解できれば難しくありません。
SN比の数字だけを追いかけるのではなく、自分の環境と用途を踏まえてスペックを読み解くことが、現代オーディオDACを上手に選ぶ近道だと考えられます。



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